2008年05月02日

「コミュニケーション能力」は存在しない

【漠然とした「コミュニケーション能力」】

企業は、よく「コミュニケーション能力のある人がほしい」と言います。
応募側はよく「コミュニケーション能力には自信がある」と言います。

そういう場合、私は必ず「コミュニケーション能力とは何ですか?具体的に何ができる能力のことですか?」と、企業にも、応募者にも質問します。明確に答えられない人も多いですし、答えがあっても内容はバラバラです。
ある人は「思ったことを言葉にする力」だと言うし、ある人は「聞く力」だと言い、またある人は「論理的な思考力」だと言います。
誰も共通の定義を持っていない能力なのに、「重要」とされ、その能力を相手に求めたり、自信があると言ったりしているわけです。

「コミュニケーション能力とはなにか?」、共通の理解がなければ、どうやって向上させればいいのかわかりません。
努力して向上させられるものかどうかもわかりません。

【誰に対してのコミュニケーションか?】
世の中にはこういう例があります。
・母親は、自分の赤ちゃんの泣き声や表情、動きなどで、赤ちゃんの感情の変化を見事に読み取ります。
・「潜水服は蝶の夢を見る」という映画で、脳に障害を負った主人公は、左目の「まばたき」だけで意思表示し、それを読み取る人とともに、一冊の本を書き上げました。
・宮大工の西岡常一は(他の多くの職人の世界もそうですが)、若い職人に対して、何一つ言葉で技術を教えません。若手はベテランの仕事を見て学びます。それが連綿と何世代にもわたって続いています。

これらは全て立派な「コミュニケーション」です。
お互いが伝えたいことを伝え、相手が理解するなら、コミュニケーションが成立しています。
コミュニケーションは常に相手のある話です。どれほど理路整然と説明したとしても、相手がわからなければ、コミュニケーション不成立です。長年連れ添った夫婦のように「あれ」とか「それ」だけでも伝わるなら、コミュニケーション成立です。

このように「相手の理解度」がコミュニケーションの成立を表すのですが、「誰を相手にしたコミュニケーションか」決まっていないのに、「コミュニケーション能力」が「ある」とか「ない」とかいう根拠はなんでしょう?また、会社が求めている相手がよくわからない「コミュニケーション能力」とは、なんでしょうか?

【企業の中のコミュニケーション】
■例1
毎回4〜5人参加する定例の会議があり、若手のあなたが今回資料を5部用意しました。
しかし実際会議に出てみると7人いました。上司が言います。「どうして、資料が足りないの?」

そのときの答えとして、適切なのはどれでしょう?

1.「参加者7人なのに、5部しか印刷していないからです」
2.「今までのイメージで、参加者が5人だと思っていたからです」
3.「すみません、すぐ2部コピーしてきます」

1は「直接の原因」、2は「根本原因」、3は「謝罪と問題の解決」です。
「どうして?」という疑問に対して、論理的に正しい回答は1→2→3の順です。
一方、会社で正しい回答は3→2→1です。

■例2
上司と一緒に顧客先に行こうと会社を出たら、急に雨がふりはじめました。
上司が言います、「大事な商談なのに、どうして雨がふるんだ?」

適切な回答はどれでしょう?

1.「低気圧が大陸から近づいているからだと思います」
2.「雨のふる仕組みは、 文系なのでわかりません」
3.「そうですね、イヤになっちゃいますね」
4.「すみません。僕が雨男なのかもしれません」

■例3
営業の後輩から相談を受けました。「どうして僕はうまく売れないんでしょうか?」 

適切な回答はどれでしょう?
1.「まだ、商品知識と経験が足りないと思うよ」 
2.「がんばれ。応援してるよ」
3.「そうだね。客も君から買わないなんて、ひどいね」 
4.「営業のことなら、●●さんに聞いてみたらどうだろう?」 

【文脈を読む力なのか?】

特にどれが適切とは書きませんし、正しい答えもありません。
人は「なぜ?」と言う場合、原因が知りたくて「なぜ?」と言っているだけではないのです。原因が知りたい場合、目的が知りたい場合、自嘲している場合、怒っている場合などのパターン(文脈)があります。それは、人や場面によって毎回違います。
どのパターンの「なぜ?」なのか考え、相手の求めている文脈で回答することです。そういう「文脈の読める」人を「コミュニケーション能力がある」と言っています。

それは論理的思考力とは違う能力です。しかし、論理的思考力と文脈を読む力が混在して語られるところに、コミュニケーション能力のややこしさがあります。
  
しかし、この「文脈を読む」というイメージで、「コミュニケーション能力を重視する」と言う会社は、「うちの会社の人の言いたいことがわかる人がほしい」と言っているだけです。企業の数だけルールや文化があり、人の数だけコミュニケーションがあるのに、「コミュニケーション能力」の一言でまとめるのは乱暴な話です。だからこそ、はっきりと定義できていないのだと思います。

【「コミュニケーション能力」という能力はあるのか?】
普遍的な「コミュニケーション能力」 というものは存在しません。
どんな形であれ、相手と意思疎通ができればコミュニケーションであり、できない場合「コミュニケーション能力がない」のではなく、相性が悪いだけです。コミュニケーション能力が高いと言われる人でも、知らない言語の国では、身振り手振りでわずかしかコミュニケーションできません。
国内であっても、企業ごとに独自の言語を持っており、企業や業界を変えるとうまくコミュニケーションできない、というケースが多数あります。

だから、人それぞれなので、なすすべがないのか?というとそうでもありません。
狭義の「ビジネスコミュニケーション」と呼ばれる能力はあります。それは、ビジネス界の一部で、「コミュニケーション」というカテゴリで語られる能力のことです。

1.表現力(誤解のない、わかりやすい日本語で話す、書くことができる)
2.論理的思考力(よい論理をつくるちから、論理を理解するちから)
3.マメである(きちんと返事をする、報告・相談・連絡をする)
4.文脈力(相手の「言っている」ことだけでなく「言いたいこと」がわかる) 
5.表現力(暖かい・柔らかい・気持ちよい印象で話す・聞くことができる)
6.コミュニケーションツールを使える(ソフトやメールなど)
7.説得力(相手を引き込み、納得させる力)
8.度胸(初対面の人と話しても緊張しない)
9.異国とのコミュニケーション能力(外国語ができる)
10.・・・・

などなど、無数にあります。
ただ、よく見るとこれは結局「仕事ができる」と言っているに等しいのです。
「コミュニケーション能力のある人がほしい」というのは、結局のところ、「仕事ができる人がほしい」と言っているだけです。
逆に言えば、何も言っていないに等しいわけです。

私たちに必要なのは、漠然として何も表していない「コミュニケーション能力」について「ある」とか「ない」とか悩むよりも、
企業が具体的に言わない「コミュニケーション能力」を形作る、それぞれの要素を、個別に、具体的に理解して、向上させることです。

人によってコミュニケーションのあり方は違います。文章が得意な人もいれば、初対面の人と話すのが得意な人もいます。人の数だけコミュニケーションがあります。どこを強化して何を補うのか、そしてそれは誰に対するコミュニケーションなのか、自分のコミュニケーションの現状やあるべき姿を知ることが、コミュニケーション能力について考える第一歩です。

posted by career2.0 at 19:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 就職・転職一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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